災害時、自治体がウェブサイトやSNSで情報を出したとします。たくさん閲覧されていても、必要としている人に届いたのか、内容を理解して行動できたのかは、それだけでは分かりません。[1]

同じ情報でも、スマートフォンを使えるか、何語で書かれているか、誰から聞いたかによって、受け取り方が変わり得ます。発信する仕組みと、それを使う人々や社会を、一緒に考える必要があります。

「社会情報・メディア論」分野は、情報が作られ、伝わり、受け取られる過程と、人々の関係・社会・文化・制度との関わりを調べる分野です。ウェブサイトやSNSで発信できるようにすることに加えて、誰がその情報を必要とし、どんな伝え方なら理解して使えるのかを考えます。

災害情報の「届き方」を、どう調べる?

閲覧数だけでは見えない問いを立てる

まず、「届いた」を何で確かめるか考えます。画面に表示されたこと、読んだこと、内容を理解したこと、必要な行動が取れたことは、それぞれ違います。

発信者にとっての成功と、受け手にとって役立ったかどうかも一致するとは限りません。例えば、ウェブ上だけでアンケートを集めると、そもそもインターネットを使えない人の声が抜け落ちるかもしれません。どの人の声を集められているかも調べる必要がありそうです。

問いに合う方法で、受け手や資料を調べる

例えば、「避難の案内を出したのに、どうすればよいか分からなかった人がいるのはなぜか」を調べたいとします。まず住民へのアンケートで、案内を見たか、どこで知ったか、内容が分かったかを尋ねます。回答を集計すれば、「案内を見ていない人」と「見たけれど意味が分からなかった人」が、それぞれどのくらいいたかを調べられます。

ただし、集計だけでは、どこで理解につまずいたかまでは分かりません。そこで、意味が分からなかった人に実際の案内文を見てもらい、分かりにくかった言葉や、知りたかったのに書かれていなかったことを聞きます。例えば「避難所の名前だけでは、どこにあるのか分からなかった」という話が出れば、地図や目印の示し方を調べるきっかけになります。

このように、全体の傾向を数字でつかむ調査と、一人ひとりの事情を詳しく聞く調査を組み合わせると、情報が届かない理由と、その改善方法を考えやすくなります。一人の話が全員に当てはまるとは限らないため、ほかの回答や実際の案内文とも照らし合わせます。

大学で学ぶ調査の内容を具体的に示す例が、「社会調査士」の標準カリキュラムです。調査の知識・技能を持つ人を認定する社会調査協会が定めたもので、制度に参加する大学では、資格取得を目指す学生が、この基準に沿って認定された大学の正規の授業を履修します。社会情報系のすべての学科に共通するカリキュラムというわけではありません。[2]

学習内容には、調査対象や質問の決め方、多くの回答を数字で比べる「量的調査」、聞き取りなどから事情を詳しく理解する「質的調査」、結果を分析して報告する実習が含まれます。アンケートを配るだけでなく、問いに合う調べ方を設計することも学ぶのです。

結果から、伝え方や制度を考える

ある媒体を見ていない人がいたとしても、「関心がないから」とすぐには結論づけられません。機器、言語、仕事や生活の状況など、別の理由を調べる必要があります。

そのうえで、複数の媒体をどう組み合わせるか、支援する人とどう連携するか、情報の訂正をどう伝えるかを考えます。調査結果を改善案へつなげる場合も、誰にどのような影響があるかを確かめることが求められます。

大学では、理論・調査・議論をつなぐ

「社会情報・メディア論」分野の学びには、メディアと社会の関係を説明する理論、資料やデータを集めて分析する方法、価値や制度を考える議論が関わります。たとえば名古屋大学の人間・社会情報学科の公式紹介では、社会情報系の学びに、社会情報学、情報哲学・倫理、メディア研究、社会学などが挙げられています。[3]

大学での演習や研究の流れを、災害情報の届き方を調べる例で考えてみましょう。以下は学び方を説明するために組み立てた例です。

  • 先行研究を読み、すでに分かっていることと、自分が調べたい問いを整理する。
  • 質問の仕方や対象者の選び方を考え、調査を設計する。
  • 統計、インタビュー、報道や歴史資料などから根拠を読み取る。
  • 異なる立場から結果を検討し、文章・発表・制作物にまとめる。

調査をする際は、目的の説明、対象者の同意、個人が特定される情報の扱いも学びの一部です。公開されている投稿であっても、集めて再掲することで書き手に生じる影響を考える必要があります。具体的な調査は指導教員や所属機関の手続きに従って設計します。[4]

情報工学やデータサイエンスとは、どう違う?

同じ災害情報のサービスでも、通信が途切れにくい仕組みを作るなら「ネットワーク・通信」分野や「コンピュータシステム・半導体・高性能計算」分野、使いやすい画面を考えるなら「HCI・情報デザイン」分野が関わります。投稿の傾向を分析するなら「データサイエンス・統計」分野や「AI・機械学習」分野ともつながります。

「社会情報・メディア論」分野では、情報が誰に届き、どのように理解され、社会の関係や制度にどう関わるかに目を向けます。技術を使うことも、サービスを設計することもありますが、技術の性能だけで問いが完結するわけではありません。

また、ここでいう「メディア」は、画像や音声を圧縮・認識する技術だけを意味しません。新聞、放送、SNSなどを通じた表現、コミュニケーション、文化の形成も関心の対象になります。

「図書館・知識情報」分野とは、情報へのアクセスや公共的なサービスで重なります。「人文情報・デジタル人文学」分野とは、文化資料や歴史的な文脈を扱う点でつながります。同じ題材でも、何を明らかにしようとするか、どんな方法を選ぶかが、違いを理解する手がかりになります。

大学で学ぶ科目

学部では、社会学、メディア論、情報倫理、統計、社会調査の方法などが学びの土台になります。名古屋大学の人間・社会情報学科では、情報と倫理、メディア社会論などの科目が案内されています。[3] 演習では、地域の情報発信を題材に、住民へ聞く質問を考え、調査し、集まった回答を集計して報告書にまとめる、といった学び方があります。

大学院では、メディアや社会についての理論を深め、研究したい問いに合わせて調査・分析の方法を選びます。例えば、新聞とSNSで同じ出来事の伝え方がどう違うか、行政の情報が届きにくい人にはどんな事情があるか、といった研究です。名古屋大学の社会情報学専攻には、科学技術と社会、コミュニケーション、メディア制作などを扱う専門科目があります。[5] 文章を読み解く研究、統計分析、現場での聞き取りなど、使う方法によって学ぶ内容も変わります。

この分野を学べる学部・学科には、人文・社会科学と情報技術を組み合わせる「文理融合」を掲げるところがあります。例えば、名古屋大学情報学部は文理融合の組織として教育・研究を進めています。[6] ただし、その名称だけでは、数学やプログラミングをどれほど使うかまでは分かりません。大学を探す際は、関心のあるテーマと、それを調べる方法を学べるかを、科目や研究内容から確認することが大切です。

「社会情報・メディア論」分野を学べる大学学部・大学院を探すから、関心のある人や社会の問いを扱う学びを探してみましょう。

仕事・業界ガイドでは、仕事内容から関連する分野を確認したり、学びたい分野から仕事を調べたりできます。

tojihubの情報分野の区分について

tojihubは、情報やメディアと人・社会・制度の関係を、この「社会情報・メディア論」分野として整理しています。

CS2023と科研費の区分を参考にしています。参照した区分と、各分野に含める内容・隣接分野との関係は、分類と根拠のページで説明しています。

参考文献・注釈

  1. [1]
    災害情報の場面は学び方を説明するための例です。特定の災害についての調査結果や、特定大学の授業ではありません。科目名や履修できる範囲は大学・課程によって異なります。 本文へ戻る
  2. [2]
    社会調査協会「社会調査士資格認定」「社会調査士カリキュラム詳細」。大学の正規授業の科目認定と、調査設計・分析・実習の学習内容を参照。資格に必要な履修には選択科目があり、具体的な開講科目や履修条件は各大学で異なります。 本文へ戻る
  3. [3]
    名古屋大学「人間・社会情報学科」社会情報系の説明。教育内容の広がりを知る一例であり、他大学の課程にそのまま当てはめるものではありません。 本文へ戻る(1) 本文へ戻る(2)
  4. [4]
    日本社会学会「倫理綱領にもとづく研究指針」。対象者への説明と同意、データの管理、匿名性への配慮の項目を参照。 本文へ戻る
  5. [5]
    名古屋大学「社会情報学専攻」主な開講科目と講座の説明。 本文へ戻る
  6. [6]
    名古屋大学情報学部「学部長あいさつ」。文理融合の教育・研究を行う組織の例として参照。 本文へ戻る