初めて行った施設で、案内画面のどこを押せばよいか分からない。作った人には当然でも、訪れた人には通じないことがあります。文字の大きさ、選択肢の分け方、操作の流れ。その良し悪しはどうやって考えていけばよいのでしょうか。[1]

HCIはHuman-Computer Interactionの略で、人とコンピュータのやり取りを扱う分野です。情報デザインとともに、人が理解し、操作し、目的を果たす過程を調べ、情報の示し方や関わり方を設計します。

使う人の目的と、困っていることを調べる

例えば「会議室Aへ行きたい」人には、部屋を探すボタンや、現在地からの道順が役立ちます。一方で「今日、何か催しはあるかな」と訪れた人には、催しの名前や開始時刻の一覧が先に見えると選びやすそうです。最初の画面に何を置き、押した先で何を見せるかは、使う人の目的に合わせて考えます。

急いでいる人、片手がふさがっている人、文字を読むことが難しい人もいるかもしれません。ボタンを大きくする、音声でも案内するなど、困りごとに応じた方法を検討します。

利用者への聞き取りや行動の観察から、何をしたいのか、どこで困っているのかを整理します。「この色が好きか」と聞くことだけでは、目的を果たせるかは分かりません。

誰を調べたかも重要です。慣れた利用者だけの結果を、初めて来た人へそのまま当てはめることはできません。

試作品を使ってもらい、迷いや誤操作を確かめる

紙に「部屋を探す」「今日の催し」というボタンを描き、押されたボタンに応じて別の紙を見せれば、画面の切り替わりを試せます。完成したアプリがなくても、どこを押すか迷うのか、次の画面の説明が伝わるのかを調べられます。

例えば「会議室Aまでの道順を調べてください」と頼み、最初に押したボタン、迷って戻った画面、道順が分かるまでの時間を記録します。「施設一覧」という言葉が伝わらなければ「部屋を探す」に変えて、初めて使う別の人にも試してもらう、という改善が考えられます。

Webの技術標準を定める国際的な団体W3Cは、アクセシビリティ(さまざまな人が利用できること)の考え方として、実際の利用者による評価を組み合わせる方法を提示しています。一部の利用者が使えたことだけで、誰でも使えるとは判断できません。[2]

使いやすさを評価し、設計を改善する

HCIでは、完成画面の見栄えに加えて、なぜその設計にしたか、どんな方法で評価したかが重要になります。

  • 利用する場面を観察し、課題を言葉や図にする。
  • 複数の案を試作し、違いを具体的に説明する。
  • 課題の達成、誤操作、感じ方など、評価する観点を決める。
  • 観察や発言、数値を照らし合わせ、改善点をまとめる。

二つの画面を比べるとき、後から使った画面のほうが速く操作できたとしても、画面が良いからとは限りません。先に操作した経験が役立った可能性もあります。どちらを先に使うかを参加者ごとに変えるなど、比べ方にも工夫が必要です。調査する相手には目的や記録の使い方を説明し、同意を得ます。

画面以外に、音声、触覚、身振り、VR、ロボットとの対話などを扱うこともあります。人とコンピュータのやり取りは、スマートフォンの画面に触れる操作だけではありません。

人の認知やソフトウェア開発との関係

人がどのように理解・判断するか自体を探究する「認知科学・感性情報」分野と、利用体験を設計する「HCI・情報デザイン」分野は重なります。例えば「なぜそのボタンを見落とすのか」を調べる研究と、「見落としにくい画面をどう作るか」を考える研究は、同じ現象を違う目的で扱っています。

「ソフトウェア・プログラミング」分野は仕組みの設計・実装・保守を、「HCI・情報デザイン」分野は人がその仕組みとどう関わるかを強く意識します。同じチーム制作で両方を学べる場合もあります。

情報デザインは情報の構造や表現を考える入口ですが、デザイン学の全領域をこの分類に含めるわけではありません。

大学で学ぶ科目

学部では、HCIや情報デザインに加え、人の知覚・記憶を扱う心理学、聞き取りや観察の方法、統計、プログラミングなどを学びます。例えば案内画面を題材にする演習なら、利用者の困りごとを調べ、画面を試作し、実際に使ってもらって直すところまで取り組めます。九州大学のメディアデザインコースには、人の理解、情報を伝える技術、表現を組み合わせ、制作へ進むカリキュラムがあります。[3]

大学院では、特定の利用場面や技術を選び、既存の方法では解決できない問題を研究します。例えば、音声だけで操作する案内が混雑した場所でも伝わるか、手を動かせない人が視線で入力する仕組みをどう改善するか、といった問いです。専門講義や論文を読むゼミで方法を学び、試作品と実験・観察を通して、新しい方法がどんな人や場面で役立つかを確かめます。

大学を探す際は、授業のシラバスと研究室の紹介で、調査・制作・評価のどの段階を学べるか確認することが大切です。

「HCI・情報デザイン」分野を学べる大学学部・大学院を探すから、人が使う場面まで考える学びを探してみましょう。

仕事・業界ガイドでは、仕事内容から関連する分野を確認したり、学びたい分野から仕事を調べたりできます。

tojihubの情報分野の区分について

tojihubは、人とコンピュータの相互作用・使いやすさ・情報提示を、この「HCI・情報デザイン」分野として整理しています。

CS2023と科研費の区分を参考にしています。参照した区分と、各分野に含める内容・隣接分野との関係は、分類と根拠のページで説明しています。

参考文献・注釈

  1. [1]
    案内画面は説明用の架空の例です。この記事で説明する調査や試作は、特定大学の実施授業を示すものではありません。科目名や履修できる範囲は大学・課程によって異なります。 本文へ戻る
  2. [2]
    W3C WAI「Involving Users in Evaluating Web Accessibility」。利用者による評価と基準による評価の関係を参照。アクセシビリティはHCIの全体ではなく、つながりの一つです。 本文へ戻る
  3. [3]
    九州大学「メディアデザインコース」のカリキュラム。調査・試作・評価の例は、学びの流れを説明するために構成しています。 本文へ戻る