英語の学習アプリで、単語の意味を四つの選択肢から選ぶとします。何度も解けば正解は増えそうですが、単語の意味を覚えたのか、同じ位置にあるボタンを覚えたのかは、正解数だけでは分かりません。選択問題で「正解」を増やすことと、英文の意味が「わかる」ようになることは、同じではありません。[1]
「教育・学習支援」分野では、学ぶ過程を記録・分析し、学習を助ける教材やシステムを設計して、その働きや効果を調べます。例えば、間違えた単語を適切な時期に出し直すアプリや、クラスで多かった間違いを教師へ伝える画面です。誰が何を学ぶために、どんな情報を集め、どう処理して支援につなげるかを考えます。
何ができるようになってほしいかを決める
例えば、習った英単語を、初めて読む短い英文の中でも理解できるようにしたいとします。同じ四択問題を繰り返すだけでなく、その単語を使った別の英文を出し、意味を答えてもらう方法が考えられます。何ができるようになってほしいかによって、出す問題も、確かめる内容も変わります。
アプリにするには、問題ごとに扱う単語や難しさを整理し、誰がどの問題で間違えたかを記録します。その記録を使って、次に出す問題や復習の時期を選ぶ仕組みを考えます。間違えたらすぐ答えを見せるのか、文の意味を考えるヒントを出すのかも、システムの設計に関わります。
記録から、何が分かる?
アプリには、解答やヒントの利用、操作時刻などの記録を残せます。しかし、画面を長く開いたことが、長く考えたことを意味するとは限りません。画面から離れていた可能性もあります。
正誤だけでなく、問題の種類や何回目の挑戦かを一緒に記録すれば、「同じ問題なら解けるが、別の英文では間違える」といった傾向を調べられます。データベースに記録を保存し、統計や機械学習で傾向を分析して、本人への復習の提案や教師向けの画面につなげます。何を記録すれば判断に役立つのか、記録からどこまで理解度を推測できるのかも、情報学の研究課題になります。
学習の過程を記録・分析するラーニングアナリティクスは、支援の改善へつなぐ方法の一つです。京都大学大学院情報学研究科の社会情報学コースでは、教育情報学分野の研究内容として、AIや大量のデータを使った学習支援、一人ひとりに合わせた学習支援システムの開発を紹介しています。[2]
記録をそのまま「やる気」や「能力」と判断せず、どの行動をどんな条件で捉えたものかを確かめることが大切です。
大学では、作った後の学びまで調べる
教材の試作、システム開発、観察、実験、授業実践の分析などが関わります。例えば次のように、学びを支える方法を考えます。
- 学習目標と、つまずきについての仮説を整理する。
- 説明やヒントの出し方を試作する。
- 解答や発言、学習の記録を照らし合わせる。
- 別の英文や、一週間後の問題でも、習った単語の意味が分かるか確かめる。
利用前後で点数が上がっても、その理由が教材だけにあるとは限りません。繰り返しの練習、別の授業、もともとの理解度なども考える必要があります。学習者や教師の負担、利用しやすさも評価に関わります。
実際の学校や学習者を対象にする研究では、説明・同意、記録を扱う範囲、教育活動への影響を含めて、指導者や協力先と計画を立てます。
AI、HCI、教育学とのつながり
学習者に応じた支援を選ぶことには「AI・機械学習」分野、操作や情報提示には「HCI・情報デザイン」分野、何をどう学ぶかという考え方には教育学や「認知科学・感性情報」分野が関わります。
「教育・学習支援」分野では、こうした技術や知識を組み合わせ、例えば「習った単語を別の英文でも理解できるようになる」という学習目標に、本当に役立つかを確かめます。単にオンライン授業を受けることや、教材でAIを使うことだけでは、この分野を専門として学ぶことにはなりません。
ゲームやVRで学ぶ仕組みも、楽しさや新しさに加え、どの学習目標をどう支えるかを読むと、研究としての内容が見えてきます。
大学で学ぶ科目
学部では、プログラミングやデータベース、統計に加え、教育工学、学習の心理、教材設計や調査法などを組み合わせて学びます。教育工学は、学ぶ仕組みを設計し、役立つかを確かめるために技術や研究方法を使う学問です。演習では、解答を記録する英語の学習アプリを作り、ヒントや復習問題の出し方を変えたときに、その後の理解がどう変わるかを調べる、といった取り組みが考えられます。[3]
大学院では、学習データの分析、学習支援システムの設計、学びの効果を調べる研究方法を深めます。例えば、教材のどの部分でつまずいたかを教師へ伝える画面を開発し、教師が支援を考えるときに役立つかを調べる研究です。京都大学の社会情報学コースでは、コース専門科目に「情報教育特論」を設けています。[4]
大学を探す際は、システムを作る科目だけでなく、教育や心理の基礎、調査・評価の科目も確認することが大切です。学校と協力する研究を希望する場合は、指導を受けられるテーマや協力体制も調べてみましょう。
「教育・学習支援」分野を学べる大学学部・大学院を探すから、学ぶ人の変化まで考える専門を探してみましょう。
仕事・業界ガイドでは、仕事内容から関連する分野を確認したり、学びたい分野から仕事を調べたりできます。
tojihubの情報分野の区分について
tojihubは、教材・学習システム・学習を支援する方法の設計と評価を、この「教育・学習支援」分野として整理しています。
CS2023と科研費の区分を参考にしています。参照した区分と、各分野に含める内容・隣接分野との関係は、分類と根拠のページで説明しています。
参考文献・注釈
- [1]英語の学習アプリは、研究の考え方を説明するための架空の例です。特定の教材の効果や大学の授業結果を示しません。科目名や履修できる範囲は大学・課程によって異なります。 本文へ戻る
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- [3]熊本大学大学院 教授システム学専攻「IDを中心とした4つのI」。教材や教育の設計・開発・評価の考え方を参照。本文の英語教材は学び方の説明例であり、同専攻の科目や学部の共通カリキュラムを示すものではありません。熊本大学は本サイトの初期掲載対象には含まれません。 本文へ戻る
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