昔の旅人は、どこに立ち寄り、何を楽しみにしていたのでしょうか。古い日記を読むと、訪ねた寺や町、その日の出来事が分かるかもしれません。では、何十人もの日記を比べて、旅の目的や経路の違いを調べたいとしたら、どうすればよいでしょうか。[1]
歴史や文学、言語などを通して、人の考え方や文化を理解しようとする学問を人文学といいます。「人文情報・デジタル人文学」分野では、その研究にコンピュータによる検索・集計・地図表示などを取り入れます。例えば日記の地名を整理して旅の経路を比べ、その違いが生まれた理由を、当時の暮らしや文章の内容から考えるのです。
日記を、探して比べられるデータにする
日記を写真に撮れば、画面で読めるようになります。ただ、そのままでは、ある寺について書かれた箇所を全部探したり、訪ねた順番を比べたりするのに手間がかかります。そこで、文章を文字データにし、日付・地名・書いた人を記録して、検索や集計に使える形に整えます。
古い日記には、筆で書かれ、現代の活字とは形が異なる「くずし字」が使われていることがあります。人文学の研究に情報技術やデータを活用する人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)は、AIを使ってくずし字を読むアプリ「みを」を公開しています。こうした文字認識は、資料を読み、データにする助けになります。[2]
ただし、AIが読み間違えた地名をそのまま登録すると、別の場所へ旅したことになってしまいます。元の画像と照合し、読めない部分は未確定と記録します。文字を認識する技術と、昔の文字や言葉を読む知識の両方が必要になる場面です。
地図に並べて、旅の違いを見つける
訪ねた場所を地図に置き、日付の順につなげれば、誰がどんな経路を通ったかを比べやすくなります。何人もの旅人が立ち寄った町や、ある人だけが遠回りした場所が見つかれば、「ここには何があったのか」「なぜ違う道を選んだのか」と、詳しく調べたい問いが生まれます。
ここで難しいのが、日記の地名を実際の場所と結びつけることです。昔と今で名前が変わっていたり、同じ名前の村が別の地域にもあったりするかもしれません。前後に訪ねた場所や古い地図も手がかりにして、どこを指すかを確かめます。原文の表記は残し、現在の地名や位置を別の項目に記録すれば、判断を後から見直せます。
位置を特定できない場所は、分かっている場所と区別して扱います。地図をきれいに完成させることよりも、何を根拠にその場所だと考えたかが重要です。
数えた後に、原文を読んで理由を考える
ある寺の名前が何度も出てきたら、「人気の観光地だった」と考えたくなるかもしれません。しかし、一人が何日も滞在して、その寺の名前を毎日書いていた可能性もあります。登場回数だけでなく、何人の日記に書かれているのか、どのような目的で訪ねたのかを確かめる必要があります。
原文を読むと、景色を楽しみに来た人もいれば、信仰のために参拝した人や、雨を避けて滞在した人もいるかもしれません。さらに、当時の道や交通手段、旅の習慣についての研究と照らし合わせれば、立ち寄った理由をより深く考えられます。コンピュータで見つけた傾向から資料へ戻り、歴史についての説明を組み立てていくのです。
歴史や文学の知識と、情報の扱い方を組み合わせる
この例では、プログラミングで地名を集計し、地図に表示する技術だけでなく、日記の言葉や当時の社会を理解する知識も使いました。どの記述を比べれば問いに答えられるかを考え、データの作り方と分析方法を選ぶことが研究になります。
対象は大量の日記に限りません。一つの小説について、初版と改訂版のどこが変わったかを調べ、表現や考え方の変化を読む方法もあります。資料の画像や文章と、そこから作ったデータを対応づけて残せば、別の人も分析や解釈を確かめられます。
図書館情報・AI・社会情報とのつながり
資料の整理・保存・アクセスを中心に考える「図書館・知識情報」分野とは、デジタルアーカイブで重なります。「人文情報・デジタル人文学」分野では、その資料を使って歴史や文化のどんな問いを考えるかが中心になります。
「AI・機械学習」分野で扱う文字認識を使うことや、情報の広まりを「社会情報・メディア論」分野の観点で調べることもあります。技術を使う方法と、人文学の解釈を支える知識の両方を確認すると、課程ごとの違いが見えます。
大学で学ぶ科目
学部では、歴史・文学・言語などの専門と、資料の読み方、プログラミング、統計、データベースなどを組み合わせて学びます。例えば古い日記を題材にする演習なら、文章を読み、地名を記録し、地図に並べてから、元の日記に戻って旅の目的を考える、という流れです。文字を数える技術と、その時代の言葉や社会についての知識が両方必要になります。
大学院では、対象とする時代・言語・資料を絞り、デジタル資料の作成・分析や保存・共有の方法を深めます。九州大学の人文情報連係学府には、デジタル資料の構成・分析を扱う科目や演習、人文学と情報管理学の専門科目があります。[3] 研究では、日記の地名をほかの史料と照合したり、複数の版で文章の違いを比べたりして、歴史や文化について新しく分かることを探します。
大学を探す際は、読みたい資料の言語や時代と、使いたい分析方法の両方について指導を受けられるか確認することが大切です。学部では、必要な人文学と情報分野の科目を、どの学科やコースで組み合わせられるかも調べてみましょう。
「人文情報・デジタル人文学」分野を学べる大学学部・大学院を探すから、読みたい資料と試したい方法を結びつけてみましょう。
仕事・業界ガイドでは、仕事内容から関連する分野を確認したり、学びたい分野から仕事を調べたりできます。
tojihubの情報分野の区分について
tojihubは、人文学資料の分析と文化資料のデジタル化・活用を、この「人文情報・デジタル人文学」分野として整理しています。
CS2023と科研費の区分を参考にしています。参照した区分と、各分野に含める内容・隣接分野との関係は、分類と根拠のページで説明しています。
参考文献・注釈
- [1]旅の日記は、研究の進め方を説明するための架空の題材です。特定の史料についての研究成果を示しません。科目名や履修できる範囲は大学・課程によって異なります。 本文へ戻る
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