画面の読み込みを待つとき、残り時間が分かる表示と、何も示されない表示では、待った感じが変わるでしょうか。同じ時間でも、注意を向けるものや、前後に何をしていたかが関係しているかもしれません。[1]

「認知科学・感性情報」分野では、人が見聞きし、覚え、理解し、判断する過程や、ものごとの印象・感覚を調べます。実験や観察、統計に加え、人の判断の仕方を数式やプログラムで表した「計算モデル」も使い、普段は意識しにくい心の働きを調べます。

「そう感じる」を、調べられる問いにする

「待つのが苦手」だけでは、何を測ればよいか決まりません。実際より長く感じるのか、いらいらするのか、待つことを途中でやめるのかでは、調べる対象が異なります。

例えば実際の待ち時間をそろえ、「あと何秒」と出る画面と、何も出ない画面を比べます。何秒くらいに感じたかを答えてもらう方法も、どれほどいらいらしたかを段階で選んでもらう方法もあります。ただし、「長く感じた」と「いらいらした」は別のことです。何を知りたいのかに合わせて、尋ね方や記録する行動を決めます。

比べる条件を整える

長い待ち時間の後に短い待ち時間を体験する場合と、その逆では、比較の基準が変わるかもしれません。画面の色、操作への慣れ、参加者の違いなども考える必要があります。

表示の効果を知りたいなら、待ち時間も画面の色も同時に変えてしまうと、どれが結果に関係したのか分からなくなります。そこで、変えるものとそろえるものを決めて実験します。結果が予想と違った場合も、単に失敗として捨てず、仮説や測定方法を見直す材料になります。

感性情報では、安心感、好み、質感などを扱うこともあります。「多くの人に共通する傾向」と「人による違い」を、どちらも説明できるようにする視点が重要です。

大学では、実験と理論を行き来する

名古屋大学の心理・認知科学専攻の公式紹介には、心理実験、社会調査、脳活動の測定、コンピュータ・シミュレーションなど、多様な方法が挙げられています。[2]

ここでは待ち時間の感じ方を題材に、仮説を立て、実験し、結果を分析する学び方の例を考えてみましょう。

  • これまでの研究を読み、「残り時間が分かると短く感じるのでは」と確かめたい考えを立てる。
  • 見せる画面と質問を作り、待ち時間や表示の順番を決める。
  • 回答の平均だけでなく、人による違いも調べる。
  • 注意の向け方などを数式やプログラムで表し、実験の結果を説明できるか試す。

専門の装置を使う研究もありますが、装置の高度さだけで研究の価値は決まりません。何を明らかにしたいのか、そのためにどのような方法が適切かをデザインし、試行錯誤することが大切です。

人を対象とする調査・実験では、参加者への説明と同意、心身の負担への配慮、個人情報の保護など、研究倫理の規定を守る必要があります。所属機関の倫理審査などの手続きに従い、参加者の権利と安全を守りながら、知りたいことを確かめられる実験をどう設計するかも重要です。[3]

HCIやAIとは、問いの向きが違うこともある

待ちやすい画面を作ることが中心なら「HCI・情報デザイン」分野、待ち時間をどう知覚するかの説明が中心なら「認知科学・感性情報」分野との関係が強まります。同じ実験から両方へ貢献する場合もあります。

人の判断を計算モデルで表す研究は「AI・機械学習」分野とつながります。ただし、人間がどのように考えるかを説明するモデルと、課題を高い性能で解くモデルは、評価の仕方も変わります。人の間違え方まで再現したい研究と、できるだけ間違えないAIを作りたい研究では、目標が違うからです。

心理学には幅広い領域があり、そのすべてを情報分野として扱う分類ではありません。このサイトでは、認知や感性を情報学の視点から研究する分野として整理しています。計算モデルを作るだけでなく、心理実験や脳活動の測定、データ分析などを組み合わせ、人の感じ方や考え方を調べます。

大学で学ぶ科目

学部では、認知心理学、脳と心の関係、統計、心理実験の方法、データ分析などが学びの土台になります。例えば、画面に現れた印を見つけてボタンを押す実験なら、見つけるまでの時間や間違いを記録し、色や配置による違いを調べられます。名古屋大学の人間・社会情報学科には、認知心理学や心理・認知科学実験、データ解析の科目が案内されています。[4]

大学院では、知覚、記憶、言語、感情などから問いを絞り、専門講義や論文を読むゼミと、自分の研究を結びつけます。例えば、同じ待ち時間でも長く感じる条件を行動実験で調べ、その結果を説明する計算モデルを作る研究が考えられます。名古屋大学の心理・認知科学専攻では、認知モデル論や認知神経科学などの科目と、心理実験・脳活動の測定・シミュレーションを用いる研究が紹介されています。[2]

研究室によって、行動を測るのか、脳や身体の反応を測るのか、計算で説明するのかが異なります。科目と研究紹介の両方を確認することが大切です。

「認知科学・感性情報」分野を学べる大学学部・大学院を探すから、人の感じ方や考え方への問いを深めてみましょう。

仕事・業界ガイドでは、仕事内容から関連する分野を確認したり、学びたい分野から仕事を調べたりできます。

tojihubの情報分野の区分について

tojihubは、理解・記憶・判断などの認知と感性の分析を、この「認知科学・感性情報」分野として整理しています。

CS2023と科研費の区分を参考にしています。参照した区分と、各分野に含める内容・隣接分野との関係は、分類と根拠のページで説明しています。

参考文献・注釈

  1. [1]
    待ち時間の例は研究の考え方を説明するための仮説です。特定の効果が確認された実験結果や、大学の授業紹介ではありません。科目名や履修できる範囲は大学・課程によって異なります。 本文へ戻る
  2. [2]
    名古屋大学「心理・認知科学専攻」、概要・主な開講科目。学び方の一例で、各大学で同じ方法を履修できる根拠ではありません。 本文へ戻る(1) 本文へ戻る(2)
  3. [3]
    日本心理学会「倫理チェックリスト」。倫理審査、参加者への説明と同意、負荷・リスクへの対処、プライバシーの項目を参照。 本文へ戻る
  4. [4]
    名古屋大学「人間・社会情報学科」心理・認知科学系の科目と実験の紹介。 本文へ戻る