生き物のDNAの配列と、病院で記録される検査や診療の情報。どちらも大量のデータを整理し、意味を理解して比べるために情報技術を使います。[1]

「生命・医療情報」分野は、生命、健康、医療の問いに、データ解析や情報システムの方法を結びつける分野です。分析手法を使うだけでなく、何がどのように測られ、その記録から何を言えるかを、対象の知識と一緒に考えます。

DNAの配列を比べ、働きを調べる手がかりを探す

DNAの配列は、塩基という部品の並びをA・T・G・Cの文字で表したものです。例えば二つの配列を並べ、どこが同じでどこが違うかを調べます。ただし、違いが見つかっただけで、生き物のどんな特徴に関係するかまで分かるわけではありません。どの生物の、どの試料から、どんな方法で得られた配列なのかも重要です。

例えば、新しく読み取ったDNAの一部分が、どんな働きに関わるのかを調べたいとします。国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ)には、さまざまな生物の配列と、その由来などの説明が登録されています。DDBJが提供する「BLAST」という検索ツールを使うと、自分の配列と似ている部分を持つ配列を探せます。[2]

機能が既に調べられた遺伝子とよく似ていれば、自分が調べている配列の働きを考える手がかりになります。似ている範囲や程度、偶然でも似た並びが見つかりそうかを確かめ、関連する研究も読みます。似ているだけで同じ働きだと決めることはできませんが、次にどんな実験で確かめるかを考えられます。配列の比較は、生物の進化上の関係を調べる手がかりにもなります。[3]

ここでは、大量の文字列から似た部分を効率よく探すアルゴリズム、配列と説明を結びつけるデータベース、似ている程度を評価する統計が使われます。多くの試料を同じ手順で調べるなら、解析を繰り返すプログラムも必要です。情報処理によって候補を絞り、その意味を生命科学の知識で考えるのです。

診療の記録では、集まった理由を考える

病院のデータは、研究のために同じ条件で集めた実験データとは限りません。検査を受けた人と受けなかった人、記録がある期間、単位や測定方法などを確かめる必要があります。

空欄があるときも、「値が0だった」のか「測定していない」のかで意味が違います。分析の前に、医療の記録が作られる過程を理解し、用語や項目を整理する作業が欠かせません。

医療情報システムの学びでは、データを分析することに加え、必要な人が正しい情報を使えるようにする設計も扱います。例えば、診察する医師が必要な検査結果をすぐ見つけられるようにしつつ、関係のない人には患者の記録を見せない仕組みを考えます。誰が入力し、誰が使い、どこまで見られるようにするかを、医療現場の人と検討します。

大学では、二つの専門をつなぐ

情報系の基礎として、プログラミング、統計、データベース、アルゴリズムなどが関わります。それに、生命科学や医療のどの部分を学ぶかが重なります。

DNAの配列や診療記録を分析する例で、情報処理と生命・医療の知識をどう組み合わせるかを見てみましょう。

  • データの来歴、測定条件、付随情報を確認する。
  • 解析する前に品質や欠けた項目を点検する。
  • 手法を適用し、対象についての知識と結果を照らし合わせる。
  • 他の人が確認できるよう、データの版と解析手順を残す。

実習で使うデータは、公開資料、教育用に作られた資料、利用審査を伴う資料などで条件が異なります。公開されていることと、あらゆる使い方ができることは同じではありません。

世界保健機関(WHO)の指針『Ethics and governance of artificial intelligence for health』(健康・医療分野のAIの倫理とガバナンス)では、AIを開発・利用するときに、人の安全や権利を守り、判断の仕組みを説明できることや、誰が責任を負うかを明らかにすることなどを重視するよう示しています。[4]

例えば、病気を見つけるAIでも、見逃した場合と、病気でない人を病気の疑いがあると判断した場合とでは、患者への影響が異なります。誰のデータで性能を確かめたのか、どんな場面なら使えるのかも重要です。命に関わる分野だからこそ、データの扱い方や、結果が人にもたらす影響まで考える必要があります。

統計やAIとの違いと重なり

予測モデルを作ることは「AI・機械学習」分野、ばらつきや不確かさを扱うことは「データサイエンス・統計」分野と重なります。「生命・医療情報」分野では、データの意味と、生命・健康・医療の問いが研究の中心になります。

医療のデータを一度分析する入門演習があることと、その領域の専門知識や継続した研究指導を受けられることは分けて考えます。同じ「医療に関わる研究」でも、画像、配列、診療情報、地域の健康データなどで方法は変わります。

大学で学ぶ科目

学部では、プログラミング、統計、データベース、アルゴリズムなどの情報分野の基礎と、生命科学や医療情報の基礎を組み合わせます。生命情報の演習なら、公開されたDNA配列を読み込み、似ている部分を探し、その配列について分かっていることを調べる、といった学び方があります。医療情報では、検査値の単位や欠けた記録を確認して集計したり、診療記録を安全に共有する仕組みを考えたりします。

大学院では、生物情報学や医療情報学、専門的な統計・機械学習を学び、対象を絞って研究します。京都大学の公式科目案内には、配列の解析や進化の関係を扱う大学院の講義・演習があります。[5] 医療情報の研究例には、診療記録の文章を分析する方法や、病院の業務を支える情報システムなどがあります。[6] 同じデータ分析でも、生き物の特徴を知りたいのか、診療を支えたいのかで必要な知識が変わります。

大学を探す際は、どのコースから専門科目や研究室へ進めるか、生命・医療の知識をどこまで学べるかを確認することが大切です。実際の患者のデータを扱う場合は、利用条件や必要な審査、協力体制も確認します。

「生命・医療情報」分野を学べる大学学部・大学院を探すから、対象の知識と情報の方法を一緒に学ぶ経路を見てみましょう。

仕事・業界ガイドでは、仕事内容から関連する分野を確認したり、学びたい分野から仕事を調べたりできます。

tojihubの情報分野の区分について

tojihubは、生命データ・生体情報・医療情報の分析と活用を、この「生命・医療情報」分野として整理しています。

CS2023と科研費の区分を参考にしています。参照した区分と、各分野に含める内容・隣接分野との関係は、分類と根拠のページで説明しています。

参考文献・注釈

  1. [1]
    この記事の説明は、学び方を示すための例です。患者の診断や治療の判断、特定の授業・研究結果を示すものではありません。科目名や履修できる範囲は大学・課程によって異なります。 本文へ戻る
  2. [2]
    国立遺伝学研究所「DDBJ Annotated/Assembled Sequences」。塩基配列と付随情報を共有する実例。医療情報全般や全データの利用条件を示すものではありません。 本文へ戻る
  3. [3]
    国立遺伝学研究所「BLAST」「相同性検索プログラムBLASTの内部構造」。配列の比較、機能・構造・進化を考えるための検索、スコアの評価を参照。 本文へ戻る
  4. [4]
    WHO「Ethics and governance of artificial intelligence for health」、2021年。設計・利用時の倫理と人への影響を考える参照先。 本文へ戻る
  5. [5]
    京都大学生命情報解析教育センター「生物情報学コース」。学部・大学院の科目例を参照。履修には所属課程の条件があります。 本文へ戻る
  6. [6]
    京都大学情報学研究科 社会情報学コース「医療情報学講座」。診療情報の分析と情報システムに関する研究例。 本文へ戻る